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2022.05.10The Shakespeare Festival

2022年度シェイクスピア祭が開催されました

2022年度のシェイクスピア祭が開催されました。多数のご参加ありがとうございました。


13:40 ご挨拶(末廣 幹 シェイクスピア協会会長・専修大学教授)

13:50 講演 篠崎 実 氏(千葉大学教授)「テクストが語る創作の軌跡~シェイクスピア複数テクスト劇の読解~」

                                 *** 休憩 ***

15:40 トーク 谷 賢一 氏(DULL-COLORED POP主宰、劇作家・演出家・翻訳家)「シェイクスピア、演劇教育、そして劇場」(聞き手:野田 学SSJ行事担当)

17:00 閉会の辞(服部典之 日本英文学会会長・大阪大学名誉教授・関西外国語大学教授)

 

篠崎実氏講演要旨:シェイクスピアの劇作品は第3二つ折本全集第2刷(1665年)までに収録された37篇とされるが、うち18篇が劇作家の生前に四つ折本などの小さな判型で個別出版されている。そのため、シェイクスピア劇には、全集所収の本文と個別出版の版本がある複数テクスト劇が存在する。さらに個別出版された劇のなかには、本文の状態が異なる複数の四つ折本で出版されたものもあり、前世紀の初頭に書誌学者AW・ポラードはそれらを「良好四つ折本」と「劣悪四つ折本」に大別した。

 だが、私がシェイクスピア研究をはじめた1980年代は、劇作品の本文にたいする見方の大きな転換期であった。『リア王』の四つ折本と二つ折版全集の本文の違いを検討し、著者改訂説を前面に押しだした論集『王国の分割(The Division of the Kingdoms)』(1984年)と、二つの『リア王』をおさめた『オックスフォード版シェイクスピア全集』(1986年)により、劇作品を固定的な完成版とみなす立場から本文の「良好/劣悪」を判断する方法に代わり、本文の変化という動態から見る視座が導入されたのである。

 講演では、『ロミオとジュリエット』、『ハムレット』、『ヘンリー五世』、『リチャード二世』などの多テクスト劇の本文を検討し、劇作家の原稿が舞台稽古の過程で修正されたり、劇作家が台本を改訂したりする、劇場での創作のあり方を推定して、劇作品創作のいわば四次元化、動態化を試みた。

 

なお、篠崎氏の講演原稿は、当日協会ホームページより配布したハンドアウトとともに、こちらからダウンロード可能です。


劇作家・演出家・翻訳家の谷賢一氏のトークでは、「シェイクスピア、演劇教育、そして劇場」という題で、以下の三点についてうかがいました。1)日英演劇教育におけるシェイクスピアの教え方、2)海外演出家とのコラボレーションも数多く手がけてきた谷氏の経験、3)谷氏翻案・演出の『マクベス』(DULL-COLORED POP, 2019 KAAT神奈川芸術劇場)の舞台映像(部分)を見ながらの創作過程についてのお話。ルーマニア演出家のシルヴィウ・プルカレーテの影響下にあって『マクベス』を翻案・演出した谷氏が、上演当時の日本の政治状況に対する批判的視座を大胆に投影した経緯がうかがえ、興味深い内容となりました。